2.今後のデジタル社会の全体最適化に向けた視点

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【仙波】最近の報道で、⾏政届け出書類の押印廃⽌について、法務⼤⾂が婚姻届けや離婚届もその対象として考えているといった発⾔をされていてかなり驚きました。⾔うまでもなく、婚姻届や離婚届は⼾籍簿に記載される極めて重要な情報源であって、押印を廃⽌する上では、それに代わる確実な確認⼿段を講じた上でないと、法務省は認めないと思ったからです。もちろんデジタル技術の進展で、押印そのものに対する信頼性は薄らいでおり、形式的な⼿続きになっていることはその通りなのですが。

【森⽥】デジタル化が進んでいるエストニアでも、絶対対⾯でないとその役所が承認しないのが婚姻届と離婚届と不動産の売買です。つまり、直接対⾯して、担当者が本⼈の意思を確認するには、単に⾔葉だけではなく、その顔つきや態度も含めてきちっとチェックをするということが必要だって⾔うのですよね。ところが、⽇本の場合にはハンコをなくすと⾔っていますが、事実上婚姻届は代理でもいいわけだし、三⽂判が押してさえあれば、本当の本⼈の意思かどうかまでは分からないですよね。
 そういう意味では、本来の届出制度の⽬的に対して⽇本はものすごく⽢くていい加減な制度で、それに加えてハンコという余計なことまでしていたのではないかと思います。もしハンコをなくしても良いですよと、それがサインにするか署名にするかということはあると思いますけれど、それは⼿続き的にはやった⽅が良いのかもしれませんが、実際の婚姻の意思の確認であるとか、そういうことを確認する制度としてはあまり意味がない。これをデジタル化してデジタル署名にしたら同じようにだめではないか。そういう意味では、その制度の本質を⾒て何が⼀番合理的であるか、そしてその合理的である制度を達成するためのツールとしてデジタルがどう使えるかと、そういう発想が必要になってくるのではないかと思います。だから、⽇本の場合には⽬的と⼿段っていうか、その⼀⾯だけ⾒てデジタルにすればいいんでしょうみたいなところが多すぎるのではないでしょうか。

【安達】報じられている政府のデジタル化対応を⾒ていると、マイナポイントの導⼊や健康保険証や運転免許証との⼀体化など、マイナンバーカードの普及をデジタル社会の⼀丁⽬⼀番地のように⼒を⼊れているように感じますが。

【森⽥】たしかに、今の政府はマイナンバーカードの普及に⼒を⼊れていますが、エストニアなどではもうカードはだんだんすたれてくるだろうという認識です。要するに本⼈認証の⼿段ですから、健康状態から労働関係から年⾦から私に関するデータベースと私本⼈とをつなぐ⼀種の鍵としてカードがあるわけで、あくまで本⼈確認⼿段であって、カードの中にデータがあるわけではない。私が本⼈ですよということが分かり、それを使ってデータを⼊れたり出したりするツールのため、別にカードでなくても良いわけです。すでに向こうはスマホの SIM カード1などにシフトしています。
 スウェーデンなどは、マイクロチップを体に埋め込んだら楽で良いと⾔っているし、中国の深圳の地下鉄では⼿ぶらで⾏って顔認証で⼊場できている。最初の 1 回⽬だけ顔認証してどこの誰だかをスマホに登録しておくと、あとは顔パスで乗れるわけです。
 韓国の新幹線も、ネットでチケットを買えば、あとは何の障害もなく⼊っていけるわけですよね。電⾞が動き出してから⾞掌が⾒て、お⾦を払ってない席に⼈がいた時にチェックされる。ですから何百万円もする⾃動改札機などは不要なのですね。⽇本では⼀⼈でもキセルがでると絶対良くないという考えのようですが(笑)。

【安達】デンマークを訪れた際に、有料道路を⾛る⾞のナンバープレートを撮影して、後から⾞の持ち主に請求するという仕組みがあると聞きました。それでは取りっぱぐれもあるでしょうと聞いたら、それはあるかも知れないが、そのために⼤⾦掛けてゲートなどを設けようとは思わないと⾔われました。

【森⽥】そう思います。だから、今の三密対策で、感染を予防するために⼈出を抑制すると⾔いますけど、台湾なんかはマイナンバーの下⼀桁が奇数か偶数かで、外出規制をかけるとかですね。1/3 にしようと思えば 3 で割って余りが 0 か 1 か 2 かでやればできるわけですし(笑)、多分そんなやり⽅をした⽅が合理的でしょうね。だから、⾃動⾞の混雑を防ぐために、ナンバープレートが奇数か偶数かで分けるということもいろんな国で⾒られます。そうした⽅がはるかに安全でうまくいく。ただ、それをどこでチェックするかというところで、⽇本の場合は特定個⼈情報2の話が出てくるものだから困ってしまう。


3.デジタル化に向けまず考えるべきこととは?
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